基本的な考え方
第一生命グループが追求する「将来にわたるすべての人々の幸せ」は、100年後を見据えた持続的社会が存在してこそ実現するものです。私たちは、社会の持続性確保を事業運営の根幹と位置付け、それに向けた重要課題※1の解決にこれまで以上に積極的に取り組んでいくこととしています。とりわけ、気候変動への対応は世界的な重要課題の一つであり、日本政府も2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指すこと、さらに50%の高みに向け挑戦を続けることを表明しています。当社では人々の生活基盤である地球環境のサステナビリティ確保に向けて、当社グループは事業会社として、そして機関投資家として、カーボンニュートラルを実現するための目標を掲げ、国際会議や政府・業界団体・学術機関等との対話や協業を行いながら、事業を通じた気候変動への取組を継続的に強化していきます。こうした取組みの一環として本ページやサステナビリティレポートにおいてTCFD提言※2に基づく積極的な情報開示に注力しています。なかでも、気候変動が生命保険事業に与える影響の研究(P56Topics参照)については、世界的に見てもまだ定まった見解がないなかであるものの、独自のリソースを活用し、研究を進めています。この研究は、緒に就いたばかりではありますが、業界各社、政府・学術機関、ならびに、投資家の皆さまとの対話を通じて取組みや情報開示の高度化を図っていきたいとの考えのもと、今回、分析プロセスや判明済みの分析結果の開示に至りました。当社グループの新ビジョンに込めた想い※3の実現に向けて、これまで以上に事業会社・機関投資家として、リーダーシップを発揮し、世の中の範となる取組み(情報開示を含む)を推進していくことで、脱炭素社会ひいては、持続的な社会の実現に貢献していきます。
- ※1
当社グループの重要課題については、「重要課題への取組み」をご参照ください。
- ※2
2018年9月に同提言の趣旨に賛同表明。Task Force on Climate-related Financial Disclosures
- ※3
当社グループの新ビジョンは“Protect and improve the well-being of all”、「グループの理念体系」をご参照ください。
2020年度の主な取組状況
当社グループは、気候変動への対応を重要課題の一つとして位置付け、経営戦略と整合した各種の具体的な取組みを計画的に推進しています。
TCFD提言4項目 | 取組み状況 | 該当頁 |
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ガバナンス |
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ガバナンス╱リスク管理態勢 |
リスク管理 |
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ガバナンス╱リスク管理態勢 |
戦略(リスクと機会) |
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気候変動関連のリスク認識と戦略への活用 |
指標目標 |
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気候変動関連のリスク認識と戦略への活用 |
ガバナンス╱リスク管理態勢
当社グループは、経営会議・取締役会に対して、定期的に気候変動への取組状況(グループ目標をはじめとする取組みの方向性、リスクへの対応状況など)を報告※4し、その監督・助言を受けることによって、気候変動への取組みを強化するとともに、経営会議・取締役会が主導して気候変動に関わる事業計画の策定を進めることで、気候関連リスクなどを経営に組み込んでいく態勢を構築しています。
当社グループでは、経営に重要な影響を及ぼす可能性のある予見可能なリスクを「重要なリスク」として特定し、そのリスクを踏まえた事業計画の策定を推進することで、予兆段階から適切に対処するリスク管理を実施しており※5、グループの重要なリスクの特定にあたっては、グループ会社における重要なリスクの洗出結果をもとに、影響度・発生見込みなどを勘案のうえ、リスク管理統括ユニットにて特定しています。
2016年のパリ協定発効により、環境問題、とりわけ気候変動への対応は国際社会全体で取り組む課題であるとの認識が高まっており、当社グループにとっても、気候変動への対応はお客さまの生命や健康、企業活動、社会の持続可能性などに大きな影響を与えうる重要な経営課題と認識し、2019年度以降、気候変動に関するリスクを「重要なリスク」の一つとして選定し、リスク管理を強化しています。具体的には、リスク管理担当の役員が委員長を務める「グループERM委員会」のなかで、物理的リスク・移行リスクの評価・対応方法について議論を行い、必要に応じて、経営会議・取締役会にも報告しています。
さらに、グループガバナンス態勢の強化の一つとして、2021年4月より、社長が委員長を務める「グループサステナビリティ推進委員会」を新設し、気候変動への対応をはじめとするサステナビリティに関わる方針・戦略の立案や取組遂行状況のモニタリングなどを実施していきます。
また、グループ中核会社の第一生命の役員報酬に関わるKPIの一つとして、気候関連項目を設定しました。
気候変動対応に関するガバナンス╱リスク管理態勢(2021年4月時点)

グループERM委員会(年2回)※6リスク管理方針の策定とその遵守状況の確認リスク管理態勢の高度化に向けた検討など(事務局:リスク管理統括ユニット・経営企画ユニット)
グループサステナビリティ推進委員会(年3回)気候変動への対応をはじめとするサステナビリティに関わる方針・戦略の立案や取組遂行状況のモニタリングなど(事務局:経営企画ユニット)
- ※4 2020年度は、気候関連トピックを取締役会に対して計3回報告主な議案は以下のとおり・当社グループの気候変動への対応状況(気候関連リスクを含めた具体的取組み・今後の方向性など)・次期中期経営計画での気候変動への対応をはじめとしたサステナビリティ戦略
- ※5
リスク管理の詳細は、以下WEBサイトを参照
https://www.dai-ichi-life-hd.com/about/control/in_control/administer.html
- ※6
- 2020年度気候変動関連の主な議案は以下のとおり
- 気候関連リスクへの対応状況
- 生命保険事業に対する保険金等支払リスクの定量化検討
- 第一生命の運用ポートフォリオの気候関連リスク分析
- 2020年度気候変動関連の主な議案は以下のとおり
気候変動関連のリスク認識と戦略への活用
① 気候変動関連のリスク・機会、当社グループ事業への影響
当社グループとして、気候変動によって、以下のような影響が中長期的にもたらされる可能性があると認識し、Business-As-Usualシナリオ、2℃シナリオを用いて分析した結果に基づき、事業会社・機関投資家としてのコントロール策・事業としてのレジリエンス(強靭性)を高める取組みを推進しています。
気候関連のリスク | 事業への主な影響 | 時間軸 | 将来のリスクを踏まえたコントロール策・レジリエンスを高める取組み |
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物理的リスク
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長期 |
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移行リスク
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短期 ~ 中期 |
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気候関連の機会 | 事業への主な影響 | 時間軸 | 将来の機会獲得に向けたレジリエンスを高める取組み |
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短期 ~ 長期 |
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② 具体的な取組み
当社グループは、事業会社および機関投資家として、2021年3月にCO2排出量削減に関する中長期目標を設定しました。各種取組みをこれまで以上に加速させ、脱炭素社会の早期実現に貢献していくとともに、生命保険事業・資産運用事業のレジリエンスの強化を図っていきます。

<事業会社としての取組み・目標>
従来より、CO2排出量削減目標は、スコープ1※7およびスコープ2※7を対象としてきましたが、パリ協定での目標(世界的な平均気温上昇を産業革命以前と比べて1.5℃未満に抑える)に合致する水準に引き上げました。加えて、第一生命では、全社員一体となった取組みを推進するため、「事業や社員の行動変容につながる視点で重視すべき項目」を対象にスコープ3※7のCO2排出量削減目標を設定しました。なお、2020年度までのCO2排出量実績データは、「サステナビリティ関連データ」をご覧ください。
- ※7
スコープ1:当社自らの直接排出、スコープ2:他社から供給された電気などの使用に伴う間接排出、スコープ3:スコープ1・2以外の間接排出(=第一生命の活動に関連する他社の排出)。なお、第一生命のスコープ3は、カテゴリ1(購入した製品・サービス)、カテゴリ3(スコープ1、2に含まれない燃料およびエネルギー活動)、カテゴリ4(輸送、配送(上流))、カテゴリ5(事業から出る廃棄物)、カテゴリ6(出張)、カテゴリ7(雇用者の通勤)、カテゴリ12(販売した製品の廃棄)を対象として集計。

上記の2025年度目標(スコープ1+2)の達成に向けて、第一生命では、「2023年度末までのRE100達成、即ち100%再生可能エネルギー化(特に、第一生命が外部賃貸する物件(投資用不動産)は2021年度中の達成を目指す)」を図っていきます。※8 また、プロテクティブやTALにおいても、再生可能エネルギー導入・カーボンオフセットなどを推進しており、グループ一体となった取組みを展開していきます。
- ※8
取組詳細は、2021年3月5日付ニュースリリース
をご覧ください。
【Topics】気候変動が生命保険事業に与える影響の研究
当社グループでは気候変動が生命保険事業に与える影響として、保険金・給付金支払いに関するリスク把握の取組みを進めています。気温上昇に対しては各分野で研究が進められていますが、保険金・給付金支払いの観点では、健康と自然災害の変化が直接的な影響を及ぼすと考えられます。環境省の報告書(気候変動環境評価報告書)※9によると、健康分野では夏季の熱中症の増加や、光化学オキシダント・オゾンなどの汚染物質生成に伴う心血管疾患・呼吸器疾患の増加、蚊やダニの生息域領域の拡大や外来種の定着による感染症拡大、災害増加による避難生活の長期化に伴う被災者の熱中症・感染症・精神疾患の増加などが指摘されています。また、自然災害では洪水氾濫や土砂災害の増加による影響が考えられます。近年、これらに関する文献が多くの研究機関などにより発表され注目度がますます高まっており、当社グループではこうした研究結果を調査・分析するとともに、保険商品の特性を踏まえたうえで、リスクの網羅的な把握と影響の定量化に取り組んでいます。2020年度の取組みとしては、みずほ第一フィナンシャルテクノロジー社と共同で、気温と第一生命の死亡保険金支払いの関係を分析しました。夏季の気温上昇による健康被害の増大に着目した分析では、過去数年分の死亡保険金支払実績を用いて全国の最高気温と死亡発生の関係性を推定しました。この結果、RCP8.5シナリオ※10を適用した場合、過去の実績(2010~2019年度)と比較して、死亡の発生が2050年代には0.4%程度、2090年代には1.0%程度増加すると試算されました。これを2020年度の第一生命の死亡保険金支払実績(約4,000億円)に当てはめると、0.4%では15億円程度、1.0%では40億円程度の増加に相当します。なお、気候変動が生命保険事業に与える影響の分析・定量化は、いまだ国際的にも確立された方法はなく、各社が試行錯誤を行いながら研究・分析を行っているものと認識しています。当社グループが今回実施した影響分析は、各種の論文※11を参考に、第一生命の過去の実績による最高気温と死亡の相関の統計的な分析にとどまっています。各種疾患の発生に対する調査、医学的見地からのアプローチ、海外各社における影響調査など、課題は多いものと考えており、今後もグループ全体のリスク把握に取組んでいきます。

- ※9
気候変動により想定される影響の概略図
より抜粋・一部加工
- ※10
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書における、2100年における温室効果ガスの最大排出量に相当するシナリオ。現状を上回る対策を取らない場合、1986~2005年平均を基準として、2050年付近(中期)には1.4~2.6℃、2090年付近(長期)には2.6~4.8℃上昇(出所)気候変動影響評価報告書(環境省、令和2年12月17日公表)
- ※11
例えば、Antonio Gasparrini and others, in The Lancet Planetary Health, Volume 1, Issue 9, Projections of temperature-related excess mortality under climate change scenarios, Pages e360-e367 December 2017.
<機関投資家としての取組み・目標>
第一生命では、気候変動問題の解決を責任投資における最重要課題と位置付け、カーボンニュートラルな社会の実現に向けて取組みを進めています。2021年2月には国内で初めて、「ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス」(以下、AOA)※12に加盟し、2050年までにカーボンニュートラルな運用ポートフォリオへ移行することを対外的にコミットしました。また、AOAプロトコル(目標設定ガイドライン)に従い、上場株式・社債・不動産ポートフォリオにおける温室効果ガス(GHG)排出量を2025年までに25%削減(2020年3月末比)する目標を設定しました。温室効果ガスの排出が多い投資先を中心にエンゲージメントを行い、投資先企業の気候変動問題への取組みを後押しすることで、グローバルレベルでのリーダーシップを発揮し、カーボンニュートラルな社会の実現を目指します。
- ※12
2050年までにカーボンニュートラルのポートフォリオへの移行を目指す機関投資家団体
2050年脱炭素に向けた削減目標の設定 |
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エンゲージメントを通じた投資先企業の取組みを後押し※13 |
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低炭素社会への移行・環境イノベーション創出の後押し |
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- ※13
エンゲージメント活動の詳細は、責任投資活動報告
をご覧ください。

- ※14
2020年3月末時点の上場株式・社債・不動産のスコープ1、スコープ2の合計値(出所)上場株式、社債についてはS&PTrucostLimitedデータより第一生命にて作成、不動産については第一生命にて集計のうえ作成
第一生命は、国内株式、外国株式、国内社債、外国社債のポートフォリオに関して、投融資先企業の気候関連リスク・機会を評価するために、TCFDが開示を推奨している総炭素排出量と加重平均カーボンインテンシティ(WACI:WeightedAverageCarbonIntensity)の分析を行いました。WACIについては、企業の売上当たりの温室効果ガス排出量をポートフォリオにおける保有割合に応じて加重平均しています。これまでも、炭素税導入や座礁資産化などの移行リスクを投融資先企業の評価基準に組み込むなど、ポートフォリオのレジリエンス強化に向けた取組みを行っていますが、さらなるリスク管理態勢の強化に向けて、移行リスク・物理リスク・機会などの気候関連リスク・機会の分析高度化に取り組んでいく予定です。

- ※15
2020年3月末時点の上場株式・社債・不動産のスコープ1、スコープ2の合計値
- ※16
市場インデックスとして、TOPIX, MSCI ACWI ex-Japan、S&P Japan Corporate Bond Index、S&P International Corporate Bond Indexを使用 (出所)上場株式、社債についてはS&P Trucost Limitedデータより第一生命にて作成、不動産については第一生命にて集計のうえ作成