ガバナンスの実効性を高め成長戦略を加速

新中期経営計画の策定において社外取締役が担った役割や、コーポレートガバナンスの強化に向けた今後の課題などをテーマに社外取締役による座談会を開催しました。

社外取締役による座談会

開催概要

テーマ ガバナンスの実効性を高め成長戦略を加速
ステークホルダー
  • 社外取締役(監査等委員) 朱殷卿
  • 社外取締役 ジョージ・オルコット
  • 社外取締役 前田幸一
  • 社外取締役(監査等委員) 増田宏一
  • 社外取締役(監査等委員) 佐藤りえ子
  • 社外取締役 井上由里子
  • こちらのダイアログは第一生命ホールディングスアニュアルレポート(2018年8月発行)制作にあたり開催したものであり、所属や役職は当時のものとなります。

新中期経営計画「CONNECT 2020」に対する評価

──この春に発表した新中期経営計画「CONNECT 2020」について、社外取締役としてどう見ていますか。

オルコット まず、計画の策定プロセスを評価したいです。日本企業の意思決定は、執行側が用意したものを取締役会に提出して「これを承認してください」というやり方が多いように思いますが、今回の中期経営計画では、ドラフト段階から2~3回取締役会で審議しました。そうした議論に参加したことで、私も意思決定にある程度貢献できた、という実感を持つことができました。

前田 同感ですね。新中期経営計画の最終決定に至るまで、1年くらい前から何回も審議して、さまざまな面から計画案を検討しました。「2020年に向けて、どのような成長戦略をとっていくのか?」という大きなテーマのもとで話し合い、私たち社外の人間の意見もコンバインしながらまとめられていきました。つくり方として評価できるプロセスだったと思います。

佐藤 本当に、長い時間をかけて議論を重ねましたね。社外取締役だけでの会議もありました。それも当社の社外取締役だけでなく、第一生命の社外役員にも意見を聞き、「中期経営計画の策定にあたり、どういう視点が必要なのか?」という議論をしました。

増田 私は持株会社体制移行後に社外取締役に就任しましたので、監査等委員会設置会社という新しい機関設計の取締役会において中期経営計画がどう議論されるのか、大変注目していました。皆さんがおっしゃるように、今回の決定プロセスは非常に良かったと思います。「そもそも3ヵ年計画で良いのか?5ヵ年計画にすべきではないか?」といった根本的な議論の段階から参加できたことで、第一生命グループの目指すべき方向性や今後の課題についてもこれまで以上に多くのことが見えてきました。

前田 株式会社化以降、当社は次のステップに向けた新機軸を打ち出してきました。前中期経営計画は、国内生命保険事業、海外生命保険事業、資産運用・アセットマネジメント事業という3つの成長エンジンの基盤づくりを重視したものでしたが、今回の計画はその基盤の上で持続的成長を目指していくためのプランと位置付けられます。

上場以降、当社は「国内から海外へ」という戦略を推進しています。引き続きこの戦略を推進していくためには、改めて国内事業の足腰を鍛えること、すなわち国内事業の自律的な収益性を維持・拡大していくことが重要です。新たな中期経営計画は、そこにもフォーカスしており、しっかりした認識のもとに策定された計画だと評価しています。

佐藤 中期経営計画のコンセプトである「CONNECT」は、議論を尽くすなかで執行側から提示されたと記憶していますが、この言葉には、カスタマーファーストでお客さまとつながる、代理店や銀行など営業上のパートナーとつながる、さらにまだリーチしていない層につながるなど、いろいろな意味を含んでいます。グループの強みをすべて活かしていこう、という狙いをよく表していると思います。

「CONNECT」とは、これまでに構築してきた市場や経営資源を深掘りすることだと理解しています。海外企業のM&Aなどによる新たなリソースの獲得や、国内市場における営業チャネルの多角化による新たな顧客層へのリーチなど、これまでの戦略で得た新たな経験・ノウハウを新しい分野に再活用していくといったアプローチの表現として、「CONNECT」はステークホルダーにも伝わる言葉ですね。

井上 私はこの6月に社外取締役に就任したばかりで策定プロセスには直接関わっていませんが、その前に当社のアドバイザリーボードに参加しており、原案を提示されました。そこで注目したのは、新中期経営計画がInsTechの推進やビッグデータの解析などによってイノベーションの創出を目指していることです。さまざまな業界において、異業種との連携でデータ活用のプラットフォームを構築し、利用者にもビジネスパートナーにもメリットをもたらすエコシステムを形成していくことが、経営戦略の新しい定石となっています。この考え方は生命保険業界とも親和性が高いと思いますので、当社のこれからの取組みに期待しています。

コーポレートガバナンスの強化に向けて取り組むべきこと

──コーポレートガバナンスの面で課題と認識していることはありますか。

オルコット 一つはM&Aで取得した海外グループ会社のガバナンスです。当社はグローバルでの成長を急ピッチで推進していますが、国ごとに規制のある生命保険業では、製造業のような海外の事業所に日本からエキスパートを送って運営するやり方は有効ではありません。必然的に現地企業を買収するわけですが、全く違う歴史や文化を持つ組織がグループに加わるので、相手の経営層との信頼関係をどう構築するかが大きな課題になります。例えばプロテクティブやTALが現地で事業買収をすると孫会社ができますが、良い信頼関係が築けていなければそうした戦略も安心して任せることは難しいでしょう。本社でのグローバル人財の育成とともに、買収先企業にも日本の本社をよく知ってもらい、“One第一生命”をつくっていくことが非常に大事だと思います。

佐藤 海外グループ会社のガバナンスは極めて難しい問題ですね。買収時の相手の経営陣と良い関係を築けたとしても、世代交代したらどうなるか、といった潜在的な問題もあります。当社の場合は、子会社の後継者指名についても意識していますので、そのあたりを私たち社外取締役がどう支援していけるかだと思っています。

日本企業は買収先の自立性に配慮して、ステップバイステップでゆっくり進めることが多いですね。当社の場合は、信頼を重視する生命保険業の文化を活かして買収先の経営陣との信頼関係づくりは比較的しっかりできている印象がありますが、今後も買収先企業のマネジメントを積極的に取り込み、買収後の統合をスピード感を持って進めていくべきだと考えています。

前田 これまでいろいろな事業買収を見てきましたが、当社は非常によく人と企業を見ており、今までの買収案件についてはうまくいっていると思います。これからの3年間は、M&Aで取得した事業基盤がコア事業に対してどのようなシナジー効果を生み、新しいビジネス創出につなげていくのか、あるいは日本と海外で相互に活用できるものはないか、ガバナンスの観点からどこまで統治していくのか、買収先の人財をいかにグローバルに活用していくのかなど、さまざまな観点から検証して、新たな基盤として仕上げていく期間になると思います。

井上 少し話は変わるのですが、取締役会の実効性という観点から言うと、今後は取締役会の多様性をもっと高めていくことも重要だと思います。私は会社経営の経験はありませんが、そういうメンバーも含めて取締役会の多様性を高めることは、より多くのステークホルダーの視点を経営に反映させることにつながります。一方で、私たちが意思決定に参加して有効なアドバイスをするためには、当社の事業や戦略に対する理解を深める必要があります。

増田 当社では、非常に重層的に、手厚くトレーニングが行われていますよ。資料提供、事前説明もしっかりされていますし、現場を知るための見学会なども定期的に用意されています。国内各地の現場で生涯設計デザイナーと話したり、海外拠点を視察したりする機会もあってとても勉強になります。

会社の内部の人々は、ずっと同じ風土・文化でキャリアを積み、継続的に進めてきたものを踏まえて戦略を考えていくので、どうしても議論が同じ方向に収斂しがちになります。それに対して「こういうことは考えていますか?」と疑問を投げ掛けることに社外取締役の存在意義があるのだと思います。

佐藤 そうですね。疑問点について率直に発言することこそが、社内取締役や執行側に対して、社内にはない、全く違う視点を示すことになり意味があるのだと思っています。

私からもう一つ意見を述べると、ESGの観点なども踏まえて、より長期視点での議論も必要だと思います。生命保険という業種はそれ自体が公共性の高い生業です。ですから当社にとってのESG、あるいはCSRとは、サステナブルにこの生業ができるよう正しいやり方で「稼ぎ続ける」ことです。日本の生命保険業界が難しい環境になってきたなかで、当社は新市場・新チャネルの開拓など、新機軸をいち早く打ち出し、スピード感をもって取組みを進めています。今後も安定して稼ぎ続けるためには、優先順位に基づく事業の選別や新しい取組みについて、取締役会で規律ある議論と意思決定を行っていくことが重要です。

オルコット 未来の環境変化を見通すことは難しいですが、だからこそ20年、30年後にはどんな世界がやってきて、そこで第一生命グループがどのようなビジネスモデルによって成長し続けていくのか、もう一度白紙の状態から考えてみる必要があるのではないかと思います。当社には、長期ビジョンに基づいて成長シナリオを描き、その実現に向けた施策を実行してもらえたらと期待しています。

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