持続的な価値創造を実現するためのグローバルなガバナンス体制の構築へ

第一生命グループは、持続的な価値創造の実現に向けて、事業分散・地域分散を積極的に進めてきました。今後の当社グループのガバナンスのあるべき姿について、この分野で豊富な知見を有し、公益社団法人会社役員育成機構の代表理事を務めるニコラス・E・ベネシュ氏を迎え、議論を交わしました。

稲垣 精二(右) 代表取締役社長 ニコラス・E・ベネシュ氏 公益社団法人会社役員育成機構代表理事 長濱 守信(左) 隅野 俊亮(左) 執行役員 経営企画ユニット長 佐藤 りえ子(右) 社外取締役(監査等委員) ニコラス・E・ベネシュ氏のプロフィール 米国でMBAと弁護士資格を取得後、J.P.モルガンの投資銀行部門に入社。11年間にわたり、さまざまな案件を担当。その後、日本でM&Aアドバイザリー業務を専門とする企業を設立。複数の企業で社外取締役を務めたほか、コーポレートガバナンス・コードの策定を提言。現在は、ガバナンス強化を目指す企業の役員に対する研修やコンサルティングを行う公益社団法人会社役員育成機構で代表理事を務める。

開催概要

テーマ 持続的な価値創造を実現するためのグローバルなガバナンス体制の構築へ
社外ステークホルダー
  • 公益社団法人会社役員育成機構 代表理事 ニコラス・E・ベネシュ 氏
当社からの参加者
  • 代表取締役社長 稲垣 精二
  • 取締役(上席常勤監査等委員) 長濱 守信
  • 社外取締役(監査等委員) 佐藤 りえ子
  • 執行役員 経営企画ユニット長 隅野 俊亮
  • こちらのダイアログは第一生命ホールディングスアニュアルレポート(2017年8月発行)制作にあたり開催したものであり、所属や役職は当時のものとなります。

事業の拡大・多様化に対応したガバナンス体制を構築

株式会社化・持株会社体制へ移行し事業環境の変化に迅速・的確に対応

ベネシュ氏 第一生命は、2007年の海外進出、2010年の株式会社化・上場、2016年の持株会社体制への移行と、この10年間に経営形態を大きく変化させてきました。その背景についてご説明いただけますか。

稲垣 人口減少やマイナス金利の導入に象徴されるように、国内の生命保険事業を取り巻く環境は厳しさを増しています。そうした中でも当社グループは、持続的な価値創造の実現に向けて、事業分散・地域分散を進めてきました。具体的には、国内3生保体制の構築や、アジア・米国などでの生命保険事業への進出、国内外でのアセットマネジメント事業の強化などを進め、現在では、国内3社、海外6社の生命保険会社、内外に2社のアセットマネジメント会社を抱える企業グループになりました。このように事業環境の変化に迅速かつ的確に対応し、健全な成長を実現するために必要なガバナンス体制を追求し続けた結果、相互会社から株式会社、そして持株会社体制への移行につながりました。

ベネシュ氏 持株会社制へ移行した主な目的は何でしょうか。

稲垣 一つは、グループ内での資本の再配賦を通じて成長を加速させることです。当社グループには、国内の生命保険ビジネスという非常に規模が大きく成熟した事業と、成長途上の新しい事業とが存在しています。そのなかで、どの事業にどれだけの資本を配分していくかを適切かつ迅速に判断する役割は、事業会社ではなくグループ統治に専念する持株会社が担うべきであると考えました。もう一つの目的は、今後、大胆な戦略を実行する際の事業基盤を構築することです。例えば、生命保険会社の子会社の場合、保険業法によって業務範囲が厳しく限定されるのに対して、保険持株会社は幅広い業務を展開することが可能になります。

監査等委員会設置会社としてベストプラクティスを追求

高度な内部統制システムを活かし実効性の高いガバナンスを追求

ベネシュ氏 機関設計として第一生命ホールディングスが監査等委員会設置会社を選択した理由をご説明いただけますか。

稲垣 検討段階ではさまざまな意見があり、社外役員とも徹底的に議論しました。最終的に監査等委員会設置会社としたのは、持株会社はグループ会社の経営管理がメインの会社ですから、その取締役会は監督機能を主体としたモニタリング・ボードが最適であるとの考えからです。

ベネシュ氏 監査等委員会設置会社としてのガバナンスは十分に発揮されていますか。

長濱 第一生命ホールディングスの監査等委員会として目指しているのは、実効性の高いガバナンスです。やるからにはベストプラクティスを目指すという方針のもと、これまでに築いてきたノウハウを土台にして、会社法や社会の要請などを踏まえながら、高いハードルを掲げて取り組んでいます。私自身、内部監査の担当役員を務めていたこともあり、当社の内部統制システムの構築には長く携わってきました。現在は、監査等委員会の委員長として内部監査部門や会計監査人との連携を含め、内部統制システムを活用しながら、監督の実効性を常に高めるべく努めています。

ベネシュ氏 生命保険というのは数十年にわたる長期契約が中心になりますね。保険数理も複雑ですから、高い専門性と長期的な経営目線が求められます。しっかり業務内容を把握し、監督機能を働かせるのは難しいのではないですか。

長濱 監査等委員会では、かなりの時間をかけて各業務執行役員にヒアリングしています。各執行役員がどのような課題認識を持っているのかを把握した上で、それが実際の業務執行において反映されているのかをチェックしています。

佐藤 監査等委員会設置会社への移行に関して、私は最初から賛成したわけではありませんでした。監査役制度は、日本独自の制度で海外の方からはわかりにくいとの指摘がある一方で、監査役単独で報告請求や調査を実施できる独任制という非常に強い権限を与えられており、これによりガバナンスが有意義に機能するという評価もあります。これに対して、監査等委員会の場合、調査権を持つのは個々の委員ではなく委員会組織です。
しかし、議論を重ねるなかで、当社には非常に高度な内部統制システムがすでに整備されていることを改めて確認しました。これと上手くリンクさせれば、個々に調査権がなくても、社外役員などから問題提起があれば、その指摘は無視されることはなく、うまくその機能を発揮できると考えました。第一生命ホールディングスが「ベストプラクティスを目指す」のであれば、すべての監査等委員会設置会社の模範となるような実効性の高いガバナンスを実現できる可能性があると考え、その前提で賛成しました。移行後の現在では、その懸念は払拭されており、むしろ通常の監査役よりも範囲を広げて業務執行の妥当性をチェックできているのではないかと思っています。

ベネシュ氏 監督の実効性を高めるためには、社外取締役への情報提供・情報共有の仕組みが重要であると思います。その点はいかがでしょうか。

長濱 2016年10月のホールディングス設立以降、取締役会を12回開催しましたが、監査等委員会はそれ以上の頻度で開催しています。それに加え、議案の重要性などに応じて事前に社外取締役に対して説明会も開催しています。

佐藤 事業への理解を深めることを目的とした社内イベントなどへの参加を含めると、実質的には月3回くらいは当社に来ていると思います。また、事前に取締役会資料を準備いただけるなど、社外役員への情報提供は充実していると思います。さらに、社内で行われる会議以外にも、議案への理解を深めて議論を充実させるために、社外役員のみのフリーディスカッションができる会合を自主的に設けています。

ベネシュ氏 非常に良い試みですね。そうした場で意見を交換することは、取締役会での議論を活性化させますからね。

稲垣 私自身、米国のJanus Capital Group(現Janus Henderson Group)の社外取締役を務めた経験があるのですが、オンサイトに集まって会議するのは、基本的に四半期に1回で、それ以外は必要に応じてビデオカンファレンスを開催する仕組みでした。

ベネシュ氏 開催頻度を減らして、その分1回1回の会議をより充実させていくという方法もありますね。それ以外にも、Janusの取締役会で参考になるような取組みはありましたか。

稲垣 例えば、取締役会の下部組織である監査委員会では、執行側が退席し、会計監査人と社外からなる監査委員会メンバーだけで意見交換する機会が設けられるなど、ガバナンスの実効性を高めるためのさまざまな工夫が凝らされていて、とても健全な組織だと感じました。こうした海外企業の事例も研究しながら、当社にとって最適のガバナンスを追求していきたいと考えています。

次世代を見据えたグローバル・マネジメント体制の構築

真のグローバル企業として多様な人財の確保・育成に注力

ベネシュ氏 海外事業が連結純利益の約3割を占めるまでになり、今後、グローバルなマネジメント体制が一層重要になりますね。現在どのような体制でマネジメントしているかご説明いただけますか。

隅野 ニューヨークおよびシンガポールに設置した地域統括会社を通じて、海外グループ各社を監督・支援しています。海外グループの経営層とは、経営理念・価値観の共有を図ることを目的として「エグゼクティブ・サミット」を開催しています。また、各社の幹部層が集まる「グローバル・マネジメント・カンファレンス」などを通じて、グループ内各層での情報共有や戦略・方針の統一を図っています。

ベネシュ氏 海外グループ会社の経営層が持株会社の経営に参加するケースはありますか。

稲垣 現在、執行役員待遇の者が5名おり、海外戦略案件を審議する際などにはオンサイトあるいは電話で参加しています。

ベネシュ氏 経営層の交流だけでなく、今後のグローバル事業を担う人財の育成も大切になりますね。

隅野 おっしゃる通りです。多様な人財を確保するために、新卒採用に加えて中途採用、外国籍の人財の採用も積極的に進めています。こうして人財の層を厚くするとともに、その中から海外事業を担う人財、将来マネジメントを担う候補生などを育成していきたいと考えています。また、グローバルな人財交流や研修プログラムを充実させています。2016年度は海外のグループ社員約30名が国内での交流プログラムに参加しましたが、2017年度は50名くらいに増やす計画です。これらとともに、事業のグローバル化に対応して、社内情報インフラの多言語化なども対応していかなければならないと考えています。

ベネシュ氏 私の経験から言うと、多様性を高めグループ内の人的ネットワークを強固にすることは、グローバルな競争優位性を維持する上で大きな強みになります。個々の人財の力と人的ネットワークが、直面する課題の解決や新たなアイデアの創出をきっと後押ししてくれるはずです。

共に尊重し、共に学びあい、共に成長する

ベネシュ氏 海外グループ会社に対する監督機能を強化していこうとすると、互いのカルチャーの違いなどによって摩擦が生じる可能性もあると思いますが、持株会社としてどのような姿勢で臨もうとお考えでしょうか。

稲垣 生命保険事業は基本的にローカルビジネスですので、トップダウンで指示・命令するだけでは、うまく事業が回りません。そんな当社のグローバル・マネジメントの基本となる姿勢について、会長の渡邉はこんな言葉で表現しています。『Respecting each other』『Learning from each other』『Growing together』――すなわち“共に尊重し”“共に学びあい”“共に成長する”という考え方です。ガバナンスの本質を端的に表していると思います。第一生命グループは、国内の生命保険事業に徹していた相互会社の時代からこのマインドをとても大切にしてきました。こうした考え方は、事業の多様化・地域分散が進んだ現在もグループ内に脈々と息づいており、私もしっかりと継承していきたいと考えています。

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