特集:プロテクティブのPMI
米国プロテクティブのPMIが着実に進展し
さまざまな相乗効果が生まれています

  • 稲垣 精二
    第一生命ホールディングス株式会社
    代表取締役社長
  • リチャード ビーレン
    プロテクティブ
    社長兼CEO

第一生命グループは、2015年に米国の生命保険会社・プロテクティブをグループに加え、PMI(Post Merger Integration)を進めてきました。同社がグループの一員となったことによる成果や今後のグループの成長戦略をテーマに、第一生命ホールディングスの稲垣社長とプロテクティブのビーレン社長が意見を交わしました。

価値観を共有するパートナーとともに
グローバル市場での成長を目指す

稲垣 少子高齢化の加速や低金利政策の継続を背景に、日本の生命保険業界がますます厳しい環境に置かれるなか、第一生命は事業基盤のさらなる強化を目指して「事業分散・地域分散」に積極的に取り組んできました。ここ10年の間に、国内では第一フロンティア生命とネオファースト生命の開業によって3生保体制を確立するとともに、グローバル企業グループへの成長に向けてアジア・パシフィック地域への事業展開を推進してきました。
そして、この海外展開における大きな節目が、世界最大の生命保険市場である米国市場への進出でした。競争の非常に厳しい同市場におけるグループの戦略に合致する形での事業基盤の確立は、当社にとってチャレンジングな取組みでした。そうしたなかで、米国の生命保険業界で100年以上の歴史を持ち、独自性と戦略性に優れたビジネスモデルを有するプロテクティブがパートナー候補にあがったのです。

ビーレン 第一生命からの買収の打診は、プロテクティブにとっても歓迎すべきことでした。当社は歴史ある上場企業で経験豊富な経営陣と社員を擁しています。世界的な金融グループに加わることができれば、財務面はもちろん、ブランド力をはじめとする非財務面の経営資本も強化されると考えました。
また、企業文化の面でも第一生命には共感できることが多くありました。当社と同じく、第一生命も100年以上の歴史を持つ生命保険会社であり、長期的な視点に基づく経営を志向しています。創業当初から「お客さま第一主義」という経営理念を掲げ、お客さまの“一生涯のパートナー”として、長期にわたってその安心を支えてきたことに私たち経営陣は強く共感しました。

稲垣 2015年にプロテクティブを子会社としてグループに招き入れることができたわけですが、PMIは予想以上に順調に進んだと感じています。

ビーレン 私たちは当初から、これが第一生命にとって純投資ではなく、私たちをグループの新たなメンバーとして迎えているのだということを実感していましたからね。グループの一員になったことで、さらなる成長機会が生まれています。

新たな成長基盤の構築につながる
さまざまな相乗効果を創出

稲垣 プロテクティブを第一生命グループに迎えたことによる成果の一つは、利益成長への貢献です。プロテクティブの2018年3月期の修正利益は約350億円となり、グループ修正利益に占める海外事業の割合は約2割に達しています。

ビーレン プロテクティブの側から言えば、グローバル企業の一員になったことで、外部からの評価が大きく改善したことが最大の成果です。財務基盤が強化され、財務面の柔軟性が向上したことで、独立企業の時には難しかった大型の買収も手がけられるようになりました。
実際、グループ加入後に当社は3件の買収を成功させています。こうした取組みを通じて成長を実現してきたことで、私たち自身もグループの利益成長への貢献を実感しています。

稲垣 もう一つ大きな成果があります。それは、米国市場でユニークなビジネスを展開しているプロテクティブをグループに迎えたことで、新たな成長基盤の構築につながる多くの学びを得られていることです。“グローバルな舞台で戦える企業”になるための基盤づくりという意味では、これが最大の収穫と言っていいでしょう。
期待以上に多くの相乗効果が生まれており、例えば、シリコンバレーにイノベーションラボを設置して、有力なベンチャー企業へのアクセスを確保できたこともその一つです。新たなサービスや技術を日本国内へ導入できるよう、現地の新興企業と本格的に協議を進めています。また、このシリコンバレーへの進出を通じて、第一生命グループが商品・サービスの拡充や業務の変革に向けて注力している「InsTech(Insurance Technology)」の取組みも加速しています。

ビーレン 新たな技術分野へのアクセスという点は私たちも同様です。プロテクティブでは、第一生命からの買収提案の前からシリコンバレーの企業との連携は進めていましたが、第一生命グループに加わって、新たな技術分野の調査や研究におけるスケールメリットの享受が可能になったことは成果として強調しておきたいですね。
また、グループの手厚いサポートを受けられるようになったことで、長期の企業成長に向けた新しい取組みを進められるようになったことも非常に大きなメリットであると感じています。顧客サービスや代理店サポートの拡充をはじめ、ダイレクトチャネルにおけるプラットフォームの整備、ビッグデータを活用したアンダーライティングの簡素化など、あらゆる領域で業務改善を推進しています。

「共に尊重し、共に学びあい、共に成長する」を
グループマネジメントの基本姿勢に

ビーレン グループ加入後もプロテクティブが効率的に事業を進められるのは、「現地に経営を任せる」という第一生命ホールディングスの方針が大きいと思います。経営判断のスピードはグループ加入前と変わりありません。

稲垣 プロテクティブは経験豊富で多様性が確保された取締役会を有していますので、その経営判断を尊重しています。各国の経営陣にそれぞれの運営を任せるという方針は、ほかの地域のグループ会社でも同じです。海外企業のM&Aを推進した渡邉会長は、「Respecting each other, learning from each other, growing together(共に尊重し、共に学びあい、共に成長する)」という言葉を用いてグループマネジメントの基本姿勢を示しましたが、これには私たちの哲学が簡潔に込められていると思います。生命保険事業は地域性の高い事業であり、グループ会社のガバナンスに関しては、各国で優れた体制を整備していくことが最善の策であると考えています。

ビーレン そうした方針には感謝しています。プロテクティブの成長戦略は、リテール事業と買収事業の「好循環モデル」を核にしています。リテール事業の規模拡大の有効な手段として、他の生命保険会社から既契約ブロックを買収することで高い成長を実現してきました。買収事業において、迅速な意思決定ができることは非常に重要です。

稲垣 プロテクティブの買収事業について、ビーレン社長の判断力や経験豊富な現地社員を信頼し、尊重しています。もちろん、買収候補先のデューデリジェンスの結果や、買収が実現しなかった案件に関する情報なども含めて、私たちはその活動内容を常に把握していますし、ハードルレートを設定して、買収額に応じた厳格な判断基準も定めています。

ビーレン 事業会社と持株会社の関係を表すキーワードは「信頼と透明性」であると考えています。私たちも、事業戦略や役員人事などガバナンスに必要なあらゆる情報を迅速に報告・相談しています。プロテクティブの取締役会における決定事項は持株会社に定期的に報告するとともに、私も毎年3、4回は日本を訪れて持株会社の経営陣と密にコミュニケーションをとっています。

稲垣 将来的には、グローバルガバナンス体制の整備が必要だと考えています。ビーレン社長をはじめ、オーストラリアのTALや第一生命ベトナムの経営トップなどと協議を重ね、各グループ会社から多くの現地情報を収集してグループ戦略に活かしていくことが次のステップになるでしょう。

海外事業を進展させ
さらなる成長を実現

稲垣 私はグループ各社が持つ知見・ノウハウやリソースを相互に活用することで、グローバルにさらなる成長を実現していきたいと考えています。プロテクティブは新たなビジネスアイデアを生む多くの知見・ノウハウを提供してくれています。

ビーレン 私たちは、考え方をより多様化させ、プロテクティブだけではなくグループ全体で経験を共有していくという想いを持っています。プロテクティブは、この点において、異業種との連携で貢献していると考えています。例えば、コストコ・ホールセール社との提携では、同社の会員とウェブサイトを通じて直接取り引きすることで高い業績を上げています。同社との提携は、米国の生命保険業界では非常に珍しい取組みであるとともに、デジタル化の流れにも対応したものです。

稲垣 それこそが私たちが求めているストーリーです。新規顧客を効率的に開拓できる流通・販売経路の確保は、全グループ会社が取り組んでいる課題であり、本事例にならった取組みをグループ各社でも推進しています。今後も、グループ各社の経営層が集まるグローバル・マネジメント・カンファレンスなどの場を通じて各社の知識やノウハウを共有していくことで、グループ全体の大きな強みになっていくと信じています。

ビーレン リテール事業と買収事業の好循環モデルによって成長してきたプロテクティブには買収事業を担当する専門チームがあり、同事業に関する独自の考えと経験・ノウハウを蓄積しています。各市場の独自性を踏まえたうえで、それらをほかの地域のグループ会社と共有できれば、グループの成長にとって非常に有益だと思います。

稲垣 おっしゃるとおりです。第一生命グループでは、2018年度から新中期経営計画「CONNECT 2020」がスタートしています。海外生命保険事業では、プロテクティブをはじめ先進国市場での着実な利益成長と、アジアの新興国市場での収益拡大を組み合わせ、バランスのとれた事業ポートフォリオによって持続的成長を実現していきたいと考えています。成長の原動力として大いに期待しています。

ビーレン 「CONNECT 2020」の目標を達成できるよう、私たちもさらなる相乗効果の拡大を追求していきます。これからも良きパートナーとして絆を深めていけることを期待しています。

独自のビジネスモデルで成長を続けるプロテクティブ

110年以上の歴史を持つ企業

プロテクティブの設立は1907年。110年以上の歴史を持つ生命保険会社です。米国アラバマ州バーミングハムに本社を置き全米50州で事業を展開しており、保有契約件数は約830万件(2018年4月時点)にのぼります。


リテール事業と買収事業の好循環で成長

リテール事業(生命保険事業、年金事業ほか)と買収事業を組み合わせた独自のビジネスモデルを構築。生命保険や年金の既契約ブロックの買収を積極的に進め、1970年代以降、56件(2018年5月時点)の買収を成功させています。資本を効率的に配賦して新たな買収機会に投下することで、着実に成長しています。

グラフ:リテール事業と買収事業の好循環